Unityでインディゲームを作る!

Unityでのゲーム制作を目指し、それに関わる話題についてのブログ

MadeWithUnity探検隊! "Return of the Obra Dinn" オブラ・ディン号に何が起きたのか?

Return Of The Obra Dinn

 "Return of the Obra Dinn"(オブラ・ディン号の帰還)が今回紹介する、MadeWithUnity作品となります。(約4000字)

 もう既に5年も経っているゲーム(2018年)ですが、近年のアドベンチャー・ゲームの中でも特に評価が高い作品です。タイトルを耳にしたことがある人はそれなりに多いと思いますし、なによりあの"Paper, please"の作者の二作目です。連続してアイディアの詰まった作品を出して、どちらも高評価はすごいとしか言いようがありません。

 

 この作品については発表から時間が経過していることもあり、既に多くの人達にレビューや考察をされ尽くしています。なので今さら自分が書くようなことはあまりないので、紹介や感想はほどほどにシステム面やゲームデザインについて、自分の考えを色々書いていきたいです。

 

感想、すごい!面白い!

ObraDinn_TheShooter

銃を撃った、この男は誰?

 アイディアがすごい!ゲームとしてちゃんと面白いな!ということに尽きます。もうこれは語り尽くされているし、これで十分でしょう。無人の船という狭い密室で行われるミステリー・アドベンチャーです。プレイ時間は16時間ほどの小中規模の作品ですが、中身はしっかり作り込まれていますし、終わった後にはもうこれで終わりかぁ・・・と寂しさを感じるほどに作品の中に入り込めました。

ObraDinn_TheManShooted

彼に撃たれた男は何者?

 アドベンチャーゲームというと、コンピュータの性能がまだまだ低い時代にその制約下の中だからこその工夫がなされた古いジャンルで、主にストーリーや世界観を楽しむものという印象なのですが、まだまだやれることがあるんだ!と思いました。個人的にはそんなにやり込んだジャンルではないですし、自分ごときがそんな事を言うのはおこがましいんですが、とにかく感心するしかない良く出来た作品です。

 

 情報を集め推理するというゲームの性質上、とにかく画面をしっかり見ることが重要なゲームで、独特なグラとFPS操作が合わさって眼と脳みその疲労が大きいというほぼ唯一と言っていい欠点はあるんですが、自分なりに色々考えて正解だった時の喜びはすごいので、推理ゲームが好きな人にはオススメな作品になっています。

 

アドベンチャーゲームという遊び

 このゲームは移動や視点こそFPSスタイルではありますが、プレイヤーの行うことのできる行動(インタラクション)はドアを開けたり、本を開く、不思議な時計を使う、凝視する(カメラズーム)程度でアクション性はかなり低いです。船の中を探索する、画面を見る、情報を集める、推理することに重点を置かれた、画面の中よりもプレイヤーの頭の中での作業に比重が多い頭脳ゲームとなっております。

 もちろんゲームの中で様々なイベントは起こるわけですが、それらは断片的なモノであり、後述する補助的システムはあるにせよ、それらのピースを如何に頭の中で組み立てるか、と言う点でかなりアナログなゲームではないでしょうか。人によってはメモを取りながらプレイする人もいるかもしれません。

 

 アドベンチャーゲームというのは、基本的には色々なロケーションを動き回って、探索してキーアイテムを手に入れたり、人の話を聞いて回ってフラグを建てたりすることでゲームを進行していくゲームだと思いますが、やはり『オブラ・ディン号の帰還』も基本的にはそうした構造にはなっています。

 しかし、この作品ながらの特徴やシステムがあるので、次にそれらを確認していきたいと思います。

 

全ての出来事は既に起こっている

 このゲームは過去に起こった事件を現在から捜査し、推理していくゲームです。推理ゲームであれば、探偵が呼ばれてくるパターンや事件に巻き込まれるパターンがあると思いますが、このゲームは少し変わった進行となります。

 もう既に事件の全容は4年も前の過去の出来事であり、60人が行方不明なのです。プレイヤーはその人々の素性と死因(あるいはどこかで生きているのか)を明らかにするのが目的であり、それは探偵ではなく保険調査員というゲームでは珍しい職業が取り上げられている点からも、このゲームの大きな特徴となっています。

ObraDinn_MementoMortem

 『死人に口なし』とは言いますが、プレイヤーはある人物から不思議なアイテムを託されます。この懐中時計"Memento Mortem"は死の記憶を呼び覚ますアイテムです。これを死体のそばで使うことで、その人物の死の瞬間に飛ぶことが出来ます。

ObraDinn_TheManWhoTornApart

とある女性の死の瞬間の中で既に死亡していた男性(画面下)

 このゲームの情報集めの起点は船の乗員乗客の死そのものです。面白いのはある人物の死の瞬間において、近くで既に死んでいる人物で更に時計を使うと、現在の船の上にその死の記憶を呼び起こすことが出来る点。

ObraDinn_Recall_Of_The_Death

特殊空間の中にある死体に時計を使うと、現実世界の船上に死の追憶が浮かび上がる。

 つまり、死と死が繋がっていく、繋げていくという奇妙な捜査をすることになります。時系列順に死体を発見し、因果がわかりやすい場合もありますし、あるいは死を遡る形で何が起こったのかを探っていく場合もあります。上の画像は空間内で別の死体に時計を使い、無かったはずの死体を現実世界に呼び起こしたシーンです。

 

 時系列の精査、というのはこのゲームの大きなコンセプトの一つとなっています。船という狭い密室空間とはいえ、60人もの足跡を辿るとなると、正しい時系列を追うのは不可能なように思えます。

The_Book_Of_Obra_Dinn

捜査を進める度に自動で書き込まれていく不思議な本

 しかし、主人公にはもう一つ不思議なアイテムが与えられます。時計と共にプレイヤーに託された不思議な本は、プレイヤーが死の記憶を呼び覚ますごとにその出来事を自動的に書き記していってくれます。

 最終的には全部で10章ある空白のページ達は全て埋まり、時系列ごとにどんな出来事があり、その中で誰がどのような運命を辿ったのか分かるようになります。しかし、そうなるように頑張るのはもちろんプレイヤー自身です。

 最初は真っ白いページばかりですが、それを埋めていくのは楽しいですし、次第に事件の全貌が見えてくるのは普通の推理ゲームとはまた違った楽しみがあります。

 

ゴリ押しは禁止!

ObraDinn_AnswerSection

この男は誰か、どのような運命を辿ったのか、答えを入力しよう

 このゲームは各人物の名前と死因、犯人がいる場合はその名前を明らかにすることが目的ですが、本を開けるタイミングならいつでも答えを入力することが出来ます。

 しかし、答え合わせは正解が3つ揃った段階で行われる、というものになっています。答えが正しかったとしても、3つ揃うまでは解答は分からないということです。60人かつ、死因として入力できる答えも20個以上あるので、そもそもゴリ押しが難しいですが、このシステムによりほぼ不可能となっています。

ObraDinn_FateSelection

様々な死因の中から正しいものを選べ

 なので地道に探索し、画面を見つめて推理するしかないのです。このゲームにおける手探り感は、このようなシステムから生まれています。もちろん簡単に分かる人物もそれなりに多くいるので、少しずつ減らしていくことで絞ることは可能です。しかし、特定の難しい人物については、断片的な情報からの類推や消去法も必要になります。

 

システムの組み合わせ

 やはりゲームというのは各システムや各要素について、個別に切り離して考える以上に、全て合わせた時にそれらがどう噛み合っているかを考えることが大事だと思いました。

 このゲームはそのグラフィック、操作性、時計、本、解答システム、世界観、そして音楽が全て噛み合っています。

 独特のグラフィックはレトロゲームの風合いを出しつつ、19世紀当時の時代性とマッチしていますし、FPS視点での認知を良くも悪くも揺さぶってきます。まぁここは難点でもあるのですが、噛み合っていることは確かです。また、死体が多いゲームですが、このグラフィックのおかげでグロさは軽減されていますね。

 

 ゲーム性の中心にある、時計による死の瞬間呼び起こしシステム、自動記録システムの本、ゴリ押しを封じる解答システム、そして目視による捜査を支えるFPS方式の捜査システム、これらは特に良く噛み合っており、この交互作用こそが本作のゲームデザインに他ならないのでしょう。

ObraDinn_Warp

時計を使用して、死の瞬間にワープ!

 時計の能力を使ってワープする際、最初は暗転から音声あるいは会話だけが流れ、死の瞬間をバッと画面に映すわけですが、ものすごく劇的な演出だし、その瞬間を色んな角度から見たり、場合によっては違う階に移動したりして、同時並行で起こっていることを確認出来たりします。これはFPS方式をかなり有効に利用しているし、アクション性はないんだけど『立体的』なゲームになっているのが素晴らしいと思いました。

 つまり、船という狭いけど各層に分かれていて立体構造がある、という建造物としての特性もちゃんと活かしてるんですよね、しかもミステリーではお馴染みの密室でもあるわけで。本当にアイディアとその活かし方が素晴らしいゲームです。

 

行間の多い作品

 最初から最後まで行間の多い作品となっています。自分の頭で推測したり、連想したり、推理したりすることの大切さや面白さを思い出させてくれる作品です。クリア後にも、想像の余地が多く残されています。

 

 最近のコンテンツは分かりやすく、説明しまくることが重視されているモノが多い中ですと、こういった作品の存在は引き立ちますね。どっちのスタイルが正しいとかではなく、そのスタイルの良さを引き出せるように全力を尽くす、ということなのだと思います。

 

まとめ

 というわけで、"Return of Obra Dinn"について思ったことを書いてみました。インディゲームかくあるべき、という作品です。こういうアイディアに満ち溢れた、気の利いた作品を目指すべき、ということを再確認させてくれました。とは言え、こんな画期的なアイディア思いつけないし、実装できるのかって思っちゃいますが。

 MadeWithUnityで面白い作品10選!みたいな企画があったら間違いなく入る作品でしょうね。そういうゲームに出会えて幸運でした。やっぱ多くの人が面白いといってるゲームはちゃんと面白い!